2013年1月4日金曜日

自民党憲法改正案の検証

  
明けましておめでとうございます。


 年末年始にかけ、自民党の憲法改正(改変)案に目を通した感想を、サックリとですが、新年初っ端から述べてみたいと思います。

 ま、ここんトコロ色気の無い話ばかりでアレですが、今暫くはこんな感じで続けていきます。たぶん・・・。

 で、日本国憲法の第3章、「国民の権利及び義務」に絞って、変更箇所だけ検証してみました。現行の日本国憲法を(現行)、自民党の改変案を(自改)としてあります。


第三章 国民の権利及び義務

第10条 日本国民たる要件は、法律でこれを定める。

日本国憲法の対象者

 
第12条
(現行)
 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
(自改)
 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、保持しなければならない。国民は、これを濫用してはならないのであって、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚しつつ、常に公益及び公の秩序に反しないように自由を享受し、権利を行使する責務を負う。

解釈:
 (現行)における「自由と権利」には、「公共の福祉のために」・・・という、「奉仕精神」が求められている。そして、「奉仕」という行為が個人の自発性・・・即ち「自由」に委ねられるのに対して、(自改)における「自由と権利」は、「公益及び公の秩序に反するな」・・・という、制限に支配されるものである。


第13条
(現行)
 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
(自改)
 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

解釈:
 第12条と同様に、(現行)において「国民の権利」は、「公共の福祉に反しない」・・・であるものが、(自改)においては、「公益及び公の秩序に反しない」・・・とされている。「公共の福祉」とは「相互扶助の精神」の実現であり、収益性を求めない行為であるがゆえに、その活動範囲は無限大である。

 翻って、(自改)における「公益及び公の秩序」は、福祉に携わるひとたちの「困っている人を助ける権利」・・・を制約する場合も考えられる。


第14条
(現行)
① すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
(自改)
① すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、障害の有無、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

解釈:
 (自改)において、「障害の有無」という一節が書き加えられただけであるが、従来の差別が、「人種、信条、性別、社会的身分又は門地」という、社会的生活を送る上では「二次的な要因」であるのに対して、「障害の有無」はその程度により、自力では社会的生活を送れない場合もある「一次的な要因」であり、「差別」という条文の中にひと括りにするのには違和感を覚える。


第15条
(現行)
④ すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。
(自改)
④ 選挙における投票の秘密は、侵してはならない。選挙人は、その選択に関し、公的にも私的にも責任を問われない。

解釈:
 (現行)においては、「すべての選挙」・・・と、具体性が確認できるのに対して、(自改)においては、「選挙」・・・としか書かれておらず、「選挙」の抽象性が増している。抽象性は解釈の混乱を招くので望ましくない。


第16条
(現行)
 何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。
(自改)
① 何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願をする権利を有する。

② 請願をした者は、そのためにいかなる差別待遇も受けない。

解釈:
 (現行)の条文を二つに分割しただけのように見えるが、この条文での対象者は「何人」=「誰であれ」にあり、(自改)においては、第二項で「何人」が省略されており、且つ請願の対象も、(現行)に書かれた「かかる請願」・・・という具体性を削ぎ、「請願」・・・と書き変えたことで解釈の混乱を招く抽象性が見られる。


第18条
(現行)
 何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。
(自改)
① 何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。

② 何人も、犯罪による処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。

解釈:
 なぜ(現行)を二つに分けたのか?分ける必要があるのか?


第19条
(現行)
 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
(自改)
第19条ノ1
 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
(自改)
第19条ノ2(追加)
① 何人も、自己に関する情報を不当に取得され、保有され、又は利用されない。

② 通信の秘密は、侵してはならない。

解釈:
 (自改)においては、「第19条の2」を追加しているが、「第19条」は、「思想および良心の自由」を保障する条文であり、「個人情報の保護」を保障するのであれば、独立して追加した方が良い。「思想および良心の自由」と「個人情報の保護」は次元の違う条項である。


第20条
(現行)
③ 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。
(自改)
③ 国及び公共団体は、社会的儀礼又は習俗的行為の範囲を超える宗教教育その他の宗教的活動であって、宗教的意義を有し、特定の宗教に対する援助、助長若しくは促進又は圧迫若しくは干渉となるようなものを行ってはならない。

解釈:
 (現行)においては、「国およびその機関」・・・つまり、税金によって成り立っている機関は、「いかなる宗教的活動もしてはならない」・・・とされているが、これは、「納税者に対する公平性」を考えれば至極当然である。

 いかなる宗教の信者が納税した税金であっても、税金に区別はないのであって、国が特定の宗教的活動をすることは、納税者に対する公平性を欠き、納税の義務、徴税の根拠(公のため)を失うことになる。(自改)においては、そうした「国の宗教活動」のハードルを下げたい意図が見られる。


第21条
(現行)
① 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

② 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
(自改)
第21条ノ1
① 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の 自由は、何人に対しても保障する。

② 検閲は、してはならない。
(自改)
第21条ノ2(追加)
 国は、国政上の行為につき国民に説明する責務を負う。

解釈:
 この条文は、「国」に対して規制を加えるものである。然るに(自改)においては、「第21条の1、第1項」において、「何人も」・・・を書き加えることによって、公務員に対してまでも表現の自由を認めている。つまり、公職にある人間が「偏向した発言」をしても許されるという、「公職」をわきまえれていれば到底考えられない書き加えである。

 また、新たに追加された「第21条の2」の意味するところが分からない。国民に対して「政策の説明義務を課す」のは歓迎するが、問題は、この「説明義務を果たした」・・・ということを根拠に、一方的な政策を国民に押し付ける可能性が否めない点にある。



第22条
(現行)
① 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

② 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。
(自改)
① 何人も、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

② すべて国民は、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。

解釈:
 (自改)においては、(現行)の第1項にある「公共の福祉に反しない」・・・という制約が削除され、無制限に「居住、移転及び職業選択の自由」・・・が保障されている。しかもこの自由は「何人」を対称にしているので、「公共の福祉」=「国民が生活しやすい環境の保全」という前提を外してしまうと、「外資」などに土地を買収されたり、強制退去の行政執行などを安易に許す危険性がある。

 第2項については逆に、(自改)においては日本国内に居留する外国人が不利益を被る可能性がある。


第23条
(現行)
 学問の自由は、これを保障する。
(自改)
 学問の自由は、何人に対しても保障する。

解釈:
 これは、学問の自由を保障する対象が、(自改)においては「すべての国民」以外にも拡大されていて、この条文からすれば、在日朝鮮人学校に限らず、アメリカン・スクールや各国の公使の子女などが通う学校に対しても、「学問の自由」の保障・・・つまり、補助金を出すとも読み取れる。


第25条
(現行)
② 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
(自改)
第25条ノ1
② 国は、国民生活のあらゆる側面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
(自改)
第25条ノ2
(追加)
 国は、国民が良好な環境の恵沢を享受することができるようにその保全に努めなければならない。
(自改)
第25条ノ3
(追加)
 犯罪被害者は、その尊厳にふさわしい処遇を受ける権利を有する。

解釈:
 (自改)における追加条文、「第25条の2」は、「国」が国民の健康を直接管理することを意味し、可能性として考えられるのは「喫煙の根絶」であるとか、肥満(メタボ)の取り組みであるが、自分の健康は自分で管理するのが、それこそ「個人の人権」というものであるし、ブロイラーのように、「国」に健康まで管理されるのは遠慮したい。

 また、「第25条の3」は「第19条の2」と同様に独立した条文とし、第30条以降に加えるべき。


第29条
(現行)
② 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
(自改)
② 財産権の内容は、公益及び公の秩序に適合するように、法律で定める。この場合において、知的財産権については、国民の知的創造力の向上及び活力ある社会の実現に留意しなければならない。

解釈:
 「第2項」に変更が加えられているが、ここでも(自改)においては、「公共の福祉」から「公益及び公の秩序」へと書き換えられている。余程、「公共の福祉」が邪魔な存在らしい。その思考を読み解けば、自民党が目指す「日本」の姿もハッキリするのだろう。

 知的財産権に関しては条文の体をなしておらず、きわめて抽象的であり、無い方がマシ。



第33条
(現行)
 何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。
(自改)
 何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、裁判官が発し、かつ、理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。

解釈:
 (現行)における「権限を有する司法官憲」が、(自改)では「裁判官」と書き換えられているが、その違いを知らないので判断できない。


第34条
(現行)
 何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。
(自改)
① 何人も、正当な理由がなく、若しくは理由を直ちに告げられることなく、又は直ちに弁護人に依頼する権利を与えられることなく、抑留され、又は拘禁されない。

② 拘禁された者は、拘禁の理由を直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示すことを求める権利を有する。

解釈:
 内容はほぼ同じようですが、「ツボ」は(現行)においては拘禁理由を、「公開の法廷で示さなければならない」・・・のに対して、(自改)においては、「公開の法廷で示すよう求める権利がある」・・・ということで、拘禁理由の提示の「義務」が、拘禁理由の提示の「要求権」に摩り替えられている点です。つまり、「要求」があったからといって、拘禁理由を示す「義務」までは無いということで、例えば「不当拘禁」された場合に、その「不当性」を明らかにすることが非常に困難になる。


第35条
(現行)
① 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第33条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。

② 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。
(自改)
① 何人も、正当な理由に基づいて発せられ、かつ、捜索する場所及び押収する物を明示する令状によらなければ、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索又は押収を受けない。ただし、第33条の規定により逮捕される場合は、この限りでない。

② 前項本文の規定による捜索又は押収は、裁判官が発する各別の令状によって行う。

解釈:
 言葉の順序は違うが(現行)も(自改)もほぼ同じ内容。ただし、第2項における「権限を有する司法官憲」から「裁判官」への書き換えは、第33条と同じく判断できない。


第37条
(現行)
② 刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。

③ 刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。
(自改)
② 被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与えられる権利及び公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。

③ 被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを付する。

解釈:
 全体的に見られるが、表現を抽象化しようとする傾向がある。ここでも(現行)においては「刑事被告人」・・・と具体的に書いているのに対し、(自改)においてはただ、「被告人」・・・とするに止めている。「刑事」と「民事」、それぞれの「被告」の処遇は違うものと思われる。


第38条
(現行)
② 強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。

③ 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。
(自改)
② 拷問、脅迫その他の強制による自白又は不当に長く抑留され、若しくは拘禁された後の自白は、証拠とすることができない。

③ 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされない。

解釈:
 (自改)において、第2項から「刑罰を科せられない」・・・が削除されているが、「有罪」とされることと、「刑罰」を課せられることとは別個に存在するのか?


第39条
(現行)
 何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。
(自改)
 何人も、実行の時に適法であった行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問われない。同一の犯罪については、重ねて刑事上の責任を問われない。

解釈:
 意味なし。


第40条
(現行)
 何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。
(自改)
 何人も、抑留され、又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。

解釈:
 意味なし。


以上。





人間ナメんなよ!


でわっ!