ワタシが知り得るエジプトについて整理すると、まずオスマントルコから独立し、イギリスの保護国(王国)となり、その王政(英国傀儡)をナセルが打倒し、アラブ独立に紛れて勝手に建国されたイスラエルに、「汎アラブ主義」を旗印に戦いを挑み、リビア、イラク、シリアも「汎アラブ主義」に同調。
汎アラブ主義
然し、最新の兵器で武装したイスラエル軍は手強く、第一次から第四次(1948年~1972年)までの中東戦争においてパレスチナの地を奪回することは叶わず、ナセルの後継者サダトは、武力による解決から外交による解決へと方向転換。これによってアラブ諸国に
裏切り者
・・・と呼ばれて、軍事パレードの閲覧中に暗殺され、同席していたムバラクも銃弾によって負傷。
アンワル・アッ=サーダート
サダトの後継者となったムバラクも生粋の軍人であり、空軍のヒーローであった。ムバラクはサダトの路線を踏襲し、外交戦略によってイスラエルに対抗する道を選ぶ。それはアメリカとの親交を深めることであり、エジプト軍とアメリカ軍が近しい関係を築けば、イスラエルの勝手な振る舞いの歯止めになるという読みがあったのだろう。
また、20年以上に及ぶイスラエルとの戦争の繰り返しは国民生活の負担となり、エジプトの経済発展を鑑みても外交戦略に切り替える選択は、時代の流れであったのかも知れない。
消された「イスラム原理主義犯行説」
藤原 和彦
ミイラ捕りがミイラになってしまった・・・つまり、対イスラエルの目的でアメリカに接近したエジプト軍が、逆にアメリカに取り込まれてしまったかどうかは分からないが、反イスラエル感情が根強いエジプトが、そう易々とイスラエルロビーが跋扈するアメリカに取り込まれるとも思えない。
また、アメリカに取り込まれるということは、「自由経済」を受け入れるということにもなり兼ねず、20年に及ぶ戦時体制の中で築かれてきた、軍民共同体とも呼べる社会構造の変革を余儀なくされる。
エジプト軍が国営企業を支配していることが非難の対象とされるが、20年以上も戦時体制下にあって、多くの者が戦死、負傷したことは疑いようがなく、また、退役軍人も多く存在する。そうした者たちの生活保障は、「軍」という採算度外視の組織でなければ成し得ないのも事実である。
また、そうでなければ20年以上の戦時体制を維持し続けることなど不可能であり、国民と政府の間とのそうした「社会契約」は、ある意味「アラブ人」にとっては「当たり前」であり、未だ政情が安定しないエジプトで、何万人もの人が毎日のようにデモに参加する様子を見て、
生活はどうしてんの?
・・・と、素朴に疑問が湧くが、ムバラク政権が倒されたとはいえ、旧来の社会保障制度(社会契約)が生きているので、最低限の生活は確保できているのだろうと思われる。
【JETRO】エジプトにおける社会契約の変容
エジプトにおける社会契約と経済政策 pdf
つまり、現状ではそうした「社会契約」の履行者は「軍」であり、「軍」が崩壊することは「社会契約の崩壊」=「生活の崩壊」に繋がり、特に貧困層の国民にとっては望まざる事態であると考えられる。
と、上記の事柄を総合すると「軍」が大きな権限を持っていることが理解できるワケですが、単に「軍事力」のみが「軍」の存在意義ではないとも言え、今回のムルシー失脚が・・・「軍事クーデターではない」・・・というエジプト軍の声明も一理あるワケです。
「契約」を結ぶとは、双方がギブ・アンド・テイクの関係にあることを意味しますが、ムルシー政権(イスラム同胞団)は国民との「新しい契約」を結び損なったのではないか?と。
それは、イスラム原理主義による国民の束縛ということの引き換えに、何を国民に約束するのか?・・・ということであり、従来通りの「基本的生活権」を保障できるのか?・・・という国民の不安を、解消できなかったことにも原因があったのかも知れません。
ましてや欧米型の「自由経済」を導入すれば、現在の日本のように貧富の格差は拡大し、エジプトの国内政情を安定させるには逆効果になるでしょう。
今後草案が起草される予定の「エジプト新憲法」ですが、ま、日本のようには行かないことは明らかです。何しろ、イスラエルという「アラブ世界の異分子」の存在を無視して憲法を起草することは考えられず、「軍」は常にその存在を求められるワケですから・・・。
エジプト:安定化への道は敷かれた、しかし歩き切る時間は足りるか? アンドレイ・フェジャーシン 9.07.2013, 17:54 エジプトで8日、危機脱出のための新たなロードマップが採択された。アドリー・マンスール暫定大統領の名で、正常化への階梯が具体的に示された憲法宣言が発表されたのだ。2ヶ月以内に新憲法の草案を作成すること、その新憲法に沿った改革、2014年2月に国会議員選挙を実施すること、国会の形成ののちに大統領選挙を実施すること、などが定められた。 この「ロードマップ」に書かれた全ては軍が考案し、磨き上げ、採択したものであるという。全てがこの里程標に沿って進行し、国内の病患が癒されていけば、それに越したことはない。しかし惜しむらくは、時間が足りない。壊滅的に足りない。 野に下った「ムスリム同胞団」は今や公然と、蜂起を、そして拘禁の元大統領ムルシ氏の解放を、支持者たちに呼びかけている。その呼びかけは、周辺地域で活動する、最右翼のイスラム過激派にも及んでいる。エジプト紙、ならびに西側の報道を見る限り、既にカイロ、アレクサンドリア、シナイでは、シリア出身のイスラム武装勢力が活動を開始している(シリアにも「同胞団」の支部がある)。また、パレスチナの「ハマス」は、エジプトの新政権を非難する声明を出している。事態はこのように国際化しつつある。ここで危惧されるのは、エジプトが第二のシリアになってしまうのではないか、ということだ。シリアでは、軍および政権に外国人傭兵団が挑むという構図が出来上がりつつある。 もっとも、エジプトの政治家の全員が全員、暗い先行き感を共有しているわけではない。エジプト国家進歩党のサイード・アブダル=アリ氏は、「ムスリム同胞団」の信用は完全に失墜し、周辺地域へのその影響力は、完全に消え去る、と見ている。ただし、それには時間が必要だ、という。 「エジプトについで、他のアラブ諸国においても、『同胞団』が瓦解していくことを、待望している。シリア、パレスチナ、イラクをはじめ、かつて『同胞団』が、西側工作機関の支援をもとに、自らの前哨基地を設営した、あれら全ての場所において」 ロシアの専門家にも話を聞いてみよう。中東研究所総裁のエヴゲーニイ・サタノフスキイ氏も、基本的に、前掲アリ氏の考えに同調している。「中東地域における『同胞団』の全体的な解体、などということを語るには、まだ時期が早い」としながら、次のように語った。 「『アラブの春』諸国における『同胞団』とって、ムルシの失墜は、強い打撃であった。『同胞団』が政権についているそれら国々の野党勢力は、そう、実にチュニジアなど一部地域諸国では『同胞団』が政権についているのであるが、そうした国々では、新たな戦いが始まる。野党勢力は、自らの立場を強化すべく、新たな攻勢に出るだろう」 マンスール暫定大統領は憲法宣言によって、自らに法的イニシアティブを付与した。政府および軍との合議の上であれば、いかなる法律も作ることが出来る権限を得たのである。軍は軍で、決然と歩を進めている。9日行動を開始した軍の支部隊は、カイロその他地域のあらゆる戦略拠点に厳格なコントロールを敷いている。 アンドレイ・フェジャーシン |
一筋縄ではいかないでしょうが、焦ることなく、
万民が納得できる契約=憲法
・・・が起草されることを願う次第です。
シリアに平和を!
アラブに平和を!
人間ナメんなよ!
でわっ!