2012年7月28日土曜日
ナセルば成る(字余り)。
ずいぶん前に、「アラブの誇り」って何なのよ?と疑問を呈したワケですが、オスマン帝国支配からのアラブ民族の解放を「アラブの誇り」とするならば、イギリスの手助けによってその目的は果たせたワケです。
<アラブ世界>
しかしイギリスが「アラブの誇り」を焚きつけたのは、アラブ独立運動の混乱に乗じて中東の石油利権を手に入れたかったからで、してみると、オスマン帝国にしろ、その支配下にあったアラブ地域にしろ、本来は宗教的に一枚岩であったイスラム教徒は、イギリスによって、まんまと内部分裂を引き起こされた格好になります。
と、いうことは、「アラブの誇り」と「イスラム教」とは、「別問題」だという事ですよね?
キッカケはイギリスの策略であったにしろ、「アラブの誇り」に目覚めたエジプトの故ナセル大統領は、オスマン帝国から独立後イギリスの保護下にあったエジプトの王家から、クーデターにより政権を奪取すると「汎アラブ主義」を掲げ、「社会主義」を導入することでイスラム教宗派間の対立を押さえ込み、宗教よりも、アラブの地に住む全ての民族の共存を目指したワケです。
ガマール・アブドゥル=ナーセル
汎アラブ主義
(前略)
概要
起源は、第一次世界大戦期、ヨーロッパ列強による植民地支配やオスマン帝国の支配に抗して起こった、民族自決運動のひとつである。この時期にイギリスに支援されたアラブ反乱が起き、1940年代に、シリアで汎アラブ主義のバアス党が結成される。
理論的には社会主義にアラブ独自の民族主義が混ぜ合わされたものである。バアス党政権の場合、人民民主主義を憲法で掲げ(en:Constitution_of_Iraq)、党内で「同志」(Rafiq)と呼び合い、総書記が強い権限を持つといったソ連型社会主義と共通するところが多い。宗教との関わり合いは曖昧なものがあり、これがイスラーム主義との摩擦を生む原因となる。
(後略)
ここに来て、漸くシリアおよびアラブが抱える問題の、「本質」らしきものが見えてきた気がするワケですが、ひとつに、「汎アラブ主義」と「イスラム原理主義」とは両立しないということ。そしてイスラム教内部でも、スンニ派とシーア派の間に見られるような、宗派間の対立があること。
さらには、同じ宗派であっても、スンニ派における「ムスリム同胞団」や、シーア派における「ヒズボラ」のように先鋭的?なグループが存在し、謂うなれば、その他のリベラルな教徒との間に「溝」があること。
これらの要因が複雑に絡み合って、シリアの内戦の早期解決を阻んでいると思われるワケです。
<転載>
リビア:リベラル派が「ムスリム同胞団」を追い抜いた?
コンスタンチン ガリボフ 18.07.2012, 15:00
Photo: EPA
リビアでは17日夜、カダフィ政権崩壊後初の制憲議会選の結果が発表された。
勝利したのは「国民勢力連合」。「国民勢力連合」は、リベラル派の政党、組織、独立系政治家たちの連合体だ。「国民勢力連合」を率いているのは、リビア国民暫定評議会の前首相ジブリール氏。ジブリール氏はカダフィ政権と緊密な関係を持っていたが、革命側に移った。これにより西側では直ちにジブリール氏の人気が高まった。だがこれは、リビア国民の多くがジブリール氏を面従腹背の人だと考える根拠となった。
一方で「国民勢力連合」の勝利は、ジブリール氏が革命派ならびに前政権側の人々の支持を取り付けることに成功したことを物語っている。「国民勢力連合」は、政党割り当て分80議席のうち39議席を確保した。第2党の「正義開発党」は17議席。「正義開発党」はムスリム同胞団系の政党だ。
リベラル派政党の勝利は、リビアはカダフィ政権崩壊後に宗教過激派の強い影響下に置かれるのではないかと危惧した専門家たちの懸念を払拭した。なぜならそのような過激派の多くは、過去に国際テロ組織「アルカイダ」と関係を持っていたからだ。
(後略)
</転載>
ところで、中東というとイスラム教を連想しますが、ユダヤ教にしてもキリスト教にしても、その発祥は中東であり、これらの宗教を包括するとなると、「汎アラブ主義(アラブ型社会主義)」に頼らざるを得ないように思えます。
欧米型民主主義を不用意に導入し、「イスラム教教義」と齟齬が生じるケースが頻発するような状態になった場合、先に述べたような、複雑な対立を増徴させる危険性が想定されます。
以前、同じイスラム教徒なのに、何故イランとイラクが戦争をしたのか?疑問を呈しました。
イラン・イラク戦争
その時は、シーア派(イラン)とスンニ派(イラク)の対立と理解していたのですが、「イスラム原理主義(イラン)」と「汎アラブ主義(イラク)」の対立という側面も見えてくるワケです。
ところで欧米は、「大中東構想」を想定しているそうですが、「大中東構想」と「汎アラブ主義」とは似て非なるものです。「汎アラブ主義」は社会主義をモデルにしていることもあり、基本的に?欧米は敵意を持っているでしょう。
故ナセル大統領がアスワン・ダム建設の資金援助をイギリス、アメリカに申し込んだ際、両国ともこの要請を反故にします。ま、イギリスにしたら、イギリスの傀儡であったエジプト王家を失脚させたのはナセル大統領なのですから、当然と言えば当然かも知れません。
そこでナセル大統領は、外国資本が管理していたスエズ運河を国有化し、スエズ運河の通行料から、アスワン・ダムの建設費用を捻出しようとしますが、イギリスがすんなり引き下がるワケもなく...
第二次中東戦争
スエズ動乱
という事態になるワケです。そして軍事的に窮地に立たされるのですが、アメリカの心変わり?により九死に一生を得て、目出度くスエズ運河の国有化を成し、ついでに、イギリス+フランス+イスラエルを退けたことで、一躍アラブの英雄となります。
そうした状況を踏まえると、エジプトにとってアメリカは旧来の恩人とも言えるワケで、ナセル大統領の後を継いだ故サダト大統領が、アメリカの仲介を受け入れイスラエルと和平を結んだのも、ま、過去の恩返しと見れば納得できる行動であり、それを、「アラブに対する裏切り」と一方的に糾弾するのもどうか?...とも思うワケです。
アンワル・アッ=サーダート
Sadat Assassination
軍人であればこそ、九死に一生を得たスエズ動乱の恩を忘れず、ムバラク大統領もサダト大統領の路線を踏襲したのでしょうが、同時に、
「汎アラブ主義」はどこに行ったの?
という話にもなるワケで、「汎アラブ主義」の後退は、宗教派閥間の対立の誘発にも繋がり、「汎アラブ主義」の立役者であったエジプトが「現実路線」に比重を置くようになると、「ムスリム同胞団」などがその隙をついて勢力を巻き返すようになるワケです。
ホスニー・ムバーラク
で、混迷の度合いを深めているシリア情勢ですが、シリアは「汎アラブ主義」を堅持しており、「イスラム原理主義」とは基本的に相容れません。
だからこそ、「アルカイダ」などの原理主義勢力が「反体制側」についているワケであり、「汎アラブ主義」に過去痛い目にあったイギリス、フランスが、「反体制派」に武器を供与していることも理解できます。
アラブ連合共和国
ところで、「宗教対立」なんて今までおくびにも出さなかった西側の報道機関が、このところ妙に「宗教対立」を記事にしだしたその意図を推理してみるに、「反体制派」を騙る「原理主義者」による一般人の虐殺が明るみ出るに連れ、一部のスンニ派カルトによる犯罪を、リベラルなスンニ派教徒も巻き込んだ「宗教紛争」にすり替えようと目論んでいる可能性も考えられます。
つまり、従来の「民主化」という大儀が崩れつつあることへの「布石」とも思えるワケですが、そのような記事の書かれ方は、暴力的な手段を好まない大多数のリベラルなスンニ派教徒にしたらイイ迷惑です。ワタシたちにしても、日本政府に不満があるからといって「オーム真理教」に加担しようとは思わないのと一緒です。
シリア虐殺の嘘
2012年6月13日 田中 宇
シリアの宗派対立、周辺国に影響もサウジなどの思惑もからみ 事態の推移、予測できず
2012.7.26 22:29 MSN産経ニュース
シリア アラウィ派とスンニ派、分断の懸念
2012.7.26 22:31 MSN産経ニュース
<転載>
シリア 目撃者が見た現実
24.07.2012, 17:39
ナオワフ・イブラギム、ムンセフ・マトニ 世界の各メディアはシリアの町アレッポでの戦闘が激化していると報じている。実際に何が起こっているのかについて、VOR「ロシアの声」の特派員は現地で生活するアレッポ大学職員、ファーティマ・バナウィさんに話を聞いた。彼女によれば、戦闘についての噂はかなり誇張されたものであるものの、アレッポでの治安は安全ではないという。
-私たちは町に出る回数をできるだけ少なくしています。そこはあまり安全ではありません。常に何かの集会が行われていますし、それはシリア自由軍が組織しているものです。地元の人々はそれらの集会には参加していません。
-集会に出かける人を見たことがありますか?
-およそ15歳とか16歳の若者たちです。イドリブやハマなどから来た人々です。見た目はとても奇妙な感じです。武器を手に持って、空砲を撃ったり、悪態をついたりしています。感じとしては彼らが何かに取り付かれているような感じで、酔っているのか、何らかの薬物に影響されているのかといった印象を受けます。
-町の普通の人々はいまどのように生活しているのでしょう?
-物価は高くなりました。蜂起軍側は定期的に食料を乗せた車両や商品を載せた車両を攻撃しています。それは自分たちが使うためではない様で、捨てたり燃やしたりしています。なぜかは分かりません。多分、住民たちが政府に対して抗議を行うようしむけているのでしょうか。分かりません。それとか今日の朝などは、蜂起軍側はパン屋を脅したりしていました。ガスのタンクをたくさん積んだ車両で乗り付けて、「もしも今日店をオープンしたら、お前らを爆発するぞ!」などと脅していたのです。それからパンがないことを理由に、政府を非難するのです。しかし全体として、私たちは状況に対処できています。お互いの家に遊びに行ったり、お互いを支えあおうとしています。全てが落ち着いて、政府軍が彼ら山賊たちを追い払ってくれると信じています。私たちは動揺などしません!
-テレビでは町の様子についてどのように放送されていますか?
-もうそれはどのチャンネルを信じていいのか分かりません。例えば反対派を支持する「ハレブ・トゥデイ」などは、現場から爆発や交戦について現場のど真ん中から放送しています。時には事件が起こる前にすでにニュースを報道しています。これは冗談でありません。本当のことです。
-シリア政府の治安機関は町ではどのように行動していますか?
-政府軍はおそらく地元住民が攻撃されないように努力していると思います。一方の蜂起軍は何らかの争いが起これば、めくら滅法に乱射します。彼らにとって誰が死のうと関係ないのです。子供でさえです!その後、殺された子供たちの残虐な写真を、政府軍の仕業としてインターネットに掲載するのです。
-ダマスカスなどのほかの町では、蜂起軍が住民を追い出し、自分たちが住んでいるようですが・・・
-私たちが自分の家を明け渡すことなどありません!略奪兵や武装勢力であろうと、彼らには教育もなければ、信仰もありません。文盲な野蛮人なのです!
</転載>
いまロシアが交渉相手を選ぶとすれば、それはカルト化した「反体制派(自由シリア軍)」ではなく、リベラルなスンニ派教徒の指導層であり、スンニ派教徒内部からの「カルト集団」の分離が急務でしょう。「カルト集団」とリベラルなスンニ派教徒を分離することができれば、ひとまず、リベラルなスンニ派教徒の身の安全は守れます。
あとは「汎アラブ主義」における「宗教」の位置づけの問題、イスラム教の各宗派間における対立の問題、そして、宗派内における「右翼」と「左翼」の対立の問題?などは、アラブ人自身でしか解決できない問題ですし、そうでなければ、
「アラブの誇り」
って何なのよ?という話になるだけです。
物事が拗れたときは、何が混乱を引き起こしているのか?をトコトン追求することであり、「宗教対立」などという安易な答え...あやふやな報道煙幕に流されてはイケナイのです。
シリアに平和を!アラブに平和を!
現在、シリアは「内戦」で、日本は「原発」で苦しんでいるワケですが、このふたつの別々に見える問題の本質は一緒なのです。それ故ワタシには、シリアの人たちの苦境と福島の人たちの苦境が重なって見え、とても他人事とは思えないワケです。
人間ナメんなよ!
でわっ!