2006年5月17日水曜日

音の記憶

サイゴンでは朝から晩まで何がしかの音が聞こえます。

廃品回収のオバちゃんの声。
バインジョー売りのお兄ちゃんの声。
流しのマーサージ師の「シャカ、シャカ」という音。
これまた移動「身長・体重測定」屋の、ピーヒャラ、ピーヒャラというテーマソング?
HEMを駆け抜けていく子供たちの笑い声。真夜中の夫婦ゲンカの怒鳴り合い。
など等・・・。
その中に最近加わった新たな「生活の音」があります。
それはお向かいの家から聞こえてくる、ミシンで縫い物をする音。

「タタタタ・・・」というミシンの音を聞いていると
子供の頃の母親の背中が思い出されます。
私の母は手先が器用な方で、ご近所に頼まれていつもミシンで繕い物をしてました。
母が父と結婚する前(昭和30年頃?)、NHKのスタジオに招かれて
TV番組で反物のハタ織を披露したというのが、母の密かな自慢です。
(スタジオで撮影したボロボロの古い写真一枚が母の宝物。)

昔の女性にとって、縫い物、編み物、料理は嫁入り前の必須科目でした。
特に農家の女性は、1日の中で手を動かしている時間が長かつた思います。

小学生時代の夏休み、午前中は学校のプールでひと泳ぎして
家に戻って昼食後、昼寝から目覚めると、
「タタタタ・・・」という軽やかな、心地よいミシンの音。

(あぁ~、おかさん。誰の浴衣を縫っているんだろう?)

なんて、ボォ~っ考えながら、
(カルピス冷えてるかなぁ~?)
なんて、遠い日の記憶が鮮明に甦ってきます。

あの頃、夏の空はどこまでも青く、原っぱの雑草はムッとする草いきれ。
台風が来ると家の雨戸を釘で打ちつけ、夜は激しい雨音に何故かワクワクして
翌朝、台風一過の青空に秋の気配を感じ取ったものでした。

「タタタタ・・・」というミシンの音。
いつも何か手仕事をしていた母の背中。
「タタタタ・・・」というミシンの音。
父を、姉を、私を、弟を、ひとつの家族に縫い合わせる、
「タタタタ・・・」という軽やかな、心地よいミシンの音。

きっと今の子供たちも、親の背中を見ながら大きくなって行く・・・
時代がどんなに変わっても、
子供が0(ゼロ)から始まることに変わりは無いワケで。